AI関連技術に関する特許審査事例について2

こんにちは、高田馬場で特許事務所を共同経営しているブランシェの弁理士 高松孝行です。

今回は、以前のブログで予告していた「AI関連技術に関する特許審査事例」の内容をご紹介します。

  • 「AI関連技術に関する特許審査事例について」はこちら
  • 「AI関連技術に関する事例の追加について(説明資料)」はこちら

この事例集は、2019年(平成31年)1月30日にまとめられたもので、AI関連技術に係る特許出願の10事例が例示されています。

説明資料には、AI関連技術の概要として次のように記載されている。

  • IoT関連技術で収集された大量のデータの分析・学習は、AI関連技術の機械学習により実施されることが多い。
  • 機械学習には様々なものがあるが、近年では、コンピュータの飛躍的な計算性能向上等により、多層構造のニューラルネットワークを用いたディープラーニング(深層学習)が実施可能となり、大量のデータに基づいて高品質な学習済みモデルの生成が実現されてきている。
  • 生成した学習済みモデルは、未知のデータに対しても正解を出力することができる。
AI関連技術の概要のイラスト

引用:AI関連技術に関する事例の追加について(説明資料)

確かに概念的にはこのようにして「学習済みモデル」を理解することができますが、AI自体は目で見ることができないので、このような抽象的な表現ではどのような結果(正解)を出力することができるAIなのか分かりません。

実際に、AI関連発明のご相談を受けると、「ここで、AIを使って最適な値を出力します」と一言で済ます相談者も多いです。

しかし、特許を取得するためには、特許になるための条件(特許要件)、特にAI関連発明では、次の特許要件を満たすことが大事になります。

  • 発明の詳細な説明は、当業者が、明細書及び図面の記載と出願時の技術常識とに基づき、請求項に係る発明を実施することができる程度に記載しなければならない(実施可能要件
  • 請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであってはならない(サポート要件
  • 従来技術と比較して、いわゆる進歩性を有さなければならない

ただし、これらの特許要件も、法律的には明確に規定されていますが、AI等の新しい技術に対して具体的にどのように適用されるか分からないことが多いです。

そこで、特許庁は、AI関連技術に関する特許審査事例を作成しました。

実際に、この事例集には、明細書中にどのように記載されていれば、上記特許要件を満たすかについて、具体的な仮想事例を挙げて解説しています。

詳細は、「AI関連技術に関する特許審査事例について」や「AI関連技術に関する事例の追加について(説明資料)」ご覧になっていただければと思いますが、次のような事例について解説されています。

  • 教師データに含まれる複数種類のデータの間に相関関係等が存在することが明細書等に裏付けられておらず、出願時の技術常識を鑑みてもそれらの間に何らかの相関関係等が存在することが推認できないもの(事例46)
  • 教師データに含まれる複数種類のデータの間の具体的な相関関係等が明細書等に記載されていないが、出願時の技術常識を鑑みるとそれらの間に相関関係等が存在することが推認できるもの(事例47、48)
  • 上位概念で記載された教師データに含まれる複数種類のデータの間に相関関係等が存在することが明細書等に裏付けられておらず、出願時の技術常識を鑑みてもそれらの間に何らかの相関関係等が存在することが推認できないもの(事例49)
  • 教師データに含まれる複数種類のデータの間に相関関係等が存在することが、明細書等に記載された説明や統計情報に裏付けられているもの(事例49)
  • 上位概念で記載された教師データに含まれる複数種類のデータの間に相関関係等が存在することが明細書等に裏付けられておらず、出願時の技術常識を鑑みてもそれらの間に何らかの相関関係等が存在することが推認できないもの(事例50)
  • 教師データに含まれる複数種類のデータの間に相関関係等が存在することが、実際に作成した人工知能モデルの性能評価結果により裏付けられているもの(事例50)
  • Iによりある機能を持つと推定された物を特許請求しているが、実際に製造して物の評価をしておらず、また、学習済みモデルの示す予測値の予測精度は検証されておらず、AIによる予測結果が実際に製造した物の評価に代わりうるとの技術常識が出願時にあったとは言えないため、記載要件を満たさないもの(事例51)
  • 人間が行っている業務の人工知能を用いた単純なシステム化であるため、進歩性が否定されるもの(事例33)
  • 入力データから出力データを推定する推定手法の単純な変更のため、進歩性が否定されるもの(事例34)
  • 学習に用いる教師データの追加に、顕著な効果が認められるため、進歩性が肯定されるもの(事例34)
  • 学習に用いる教師データの変更が既知のデータの組み合わせであり、顕著な効果が認められないため、進歩性が否定されるもの(事例35)
  • 学習に用いる教師データに対する前処理により進歩性が肯定されるもの(事例36)

これだけでは、抽象的でどのようなことが問題になるか分からないかもしれません。

そこで、これからAIを使った発明で特許を取得しようと考えている人は、一度この資料をご覧になっていただき、AIとしてどの程度の記載が必要になるか検討した方がよいと思います。

一般的な言葉として「AI」というのは簡単ですが、それを特許要件を満たすように明細書に記載するのは結構骨が折れると思います。

AI関連発明、これからどんどん特許出願されると思いますが、拒絶理由通知で実施可能要件やサポート要件を満たしていないと指摘されたり、進歩性を有さないと指摘されないように、この資料でAIに関してどの程度まで記載すべきか確認しておくことをお勧めいたします。

弊所では、AI関連発明に関するご相談も承っております。
何かありましたら、弊所に是非ご相談ください。

今日は以上です。