種苗法関連裁判例1

こんにちは、高田馬場で特許事務所を共同経営しているブランシェの弁理士 高松孝行です。

現在(2016年5月)、種苗法に関する論文(主に現物主義について記述する予定)を執筆するために、裁判例を調べています。

そこで、備忘録も兼ねて、判例を紹介します。
なお、あくまで私的な解釈ですので、疑義等がありましたら是非ご指摘ください

種苗法に関する論文が掲載されている論文集はこちら

知財高平成27年6月24日裁判所HP(平成27年(ネ)第10002号) 育成者権侵害差止等請求事件

判決書はこちら

事実
なめこのイラスト
種苗法(以下,単に「法」という。)に基づき品種登録した「なめこ」の育成者権(以下「本件育成者権」という。)を有する控訴人が、被控訴人らによるなめこの生産等が本件育成者権を侵害するとして、被控訴人らに対し、法33条に基づくその生産等の差止め等を求めたところ、原審が請求をいずれも棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴した事案である。

判旨
原審と同様に、被控訴人が登録品種と同一またはこれと特性により明確に区別されない「なめこ」の種苗の生産等をしたと認めることができないとして、控訴棄却。

育成者権侵害の存否に関する判断基準について
『法の品種登録制度により保護の対象とされる「品種」とは,特性の全部又は一部によって他の植物体の集合と区別することができ,かつ,その特性の全部を保持しつつ繁殖させることができる一の植物体の集合をいい(法2条2項),これは,現実に存在する植物体の集合そのものを法による保護の対象とするものである。

そして,法は,育成者権の及ぶ範囲について,「品種登録を受けている品種(以下「登録品種」という。)及び当該登録品種と特性により明確に区別されない品種」を「業として利用する権利を専有する」と定める(法20条1項)ところ,ここに,「登録品種と特性により明確に区別されない品種」とは,登録品種と特性に差はあるものの,品種登録の要件としての区別性が認められる程度の明確な差がないものをいう。具体的には,登録品種との特性差が各形質毎に設定される階級値(特性を階級的に分類した数値)の範囲内にとどまる品種は,ここにいう「登録品種と特性により明確に区別されない品種」に該当する場合が多いと解されるし,特性差が上記の範囲内にとどまらないとしても,相違する項目やその程度,植物体の種類,性質等を総合的に考慮して,「登録品種と特性により明確に区別されない品種」への該当性を肯定することができ る場合もあるというべきである。

ところで,品種登録の際に,品種登録簿の特性記録部(特性表)に記載される品種の特性(法18条2項4号)は,登録品種の特徴を数値化して表すものと理解することができるが,品種登録制度が植物を対象とするものであることから,特性の評価方法等の研究が進展したとしても,栽培条件等により影響を受ける不安定な部分が残ることなどからすると,栽培された品種について外観等の特徴を数値化することには限界が残らざるを得ないものということができる。

このような,品種登録制度の保護対象が「品種」という植物体の集団であること,この植物の特性を数値化して評価することの方法的限界等を考慮するならば,品種登録簿の特性表に記載された品種の特性は,審査において確認された登録品種の主要な特徴を相当程度表すものということができるものの,育成者権の範囲を直接的に定めるものということはできず,育成者権の効力が及ぶ品種であるか否かを判定するためには,最終的には,植物体自体を比較して,侵害が疑われる品種が,登録品種とその特性により明確に区別されないものであるかどうかを検討する(現物主義)必要があるというべきである。』

 DNA分析について
『DNA分析の手法は,全ゲノムを解析するのではなく,特定のプライマーを用いることにより,品種に特徴的であると考えられる一部のDNA配列を分析するものであるから,品種識別に利用する際には,その正確性,信頼性を担保するためにも,妥当性が確認されたものとして確立された分析手法を採用することが必要であるというべきである。』

『なめこについては,品種識別のためのDNA分析手法として,その妥当性が確認されたものとして確立されているものが存在することを認めるに足りる証拠はない。』

『これらの報告(DNA分析の報告)に基づき,本件登録品種の種菌と,控訴人が本件登録品種の種菌と主張する種菌との同一性を肯定できるとする控訴人の主張は,採用することができない。』

解説
育成者権の及ぶ範囲であるか否かは、最終的には、登録品種と侵害被疑品種とを対比栽培し、侵害被疑品種が登録品種とその特性により明確に区別できるかできないかで判断すると明確に述べている(育成者権侵害訴訟では初めてである。)。

一方、特性表に記載された品種の特性は、育成者権の範囲を直接的に定めるものということはできないとも明確に述べている。

なお、以前の判例でも次のように判示されている。

知財高判平成18年12月25日[りんどうの品種登録処分無効確認事件]
『品種登録の際に,品種登録簿に記載される品種の特性(種苗法18条2項4号)は,登録品種を品種登録簿上,同定識別するためのものであり,特許法において特許請求の範囲の記載に基づいて定められる特許発明の技術的範囲(特許法70条1項)とは異なり,それによって権利の範囲を定めるものではない(すなわ ち,品種登録簿に記載された特性と同一の特性を備えていても,品種登録簿に記載されていない他の特性において異なり,別品種であると判断される場合には,登録品種の育成者権を侵害するものではない。)。』

今回の判例でも同様な結論となっているが(ただし「りんどう品種登録処分無効確認事件」は、育成者権侵害訴訟ではない。)、今回の判例では、「品種登録簿の特性表に記載された品種の特性は,審査において確認された登録品種の主要な特徴を相当程度表すものということができるものの」と特性表に一定の評価を与えているようにも思える。

種苗法全体の構成を考えると、特性表にある程度の法的効果を認めないと矛盾が生ずる(例えば過失の推定規定の存在など)。
特性表の存在意義と現物主義とが矛盾なく共存できるような考え方が必要ではないか。

また、この判例では、なめこのDNA分析手法が確立されていないことから、控訴人側で行ったDNA分析報告に基づいて、侵害被疑品種の球菌と登録品種の球菌とが同一であるとする主張は採用することができいないとしている。

育成者権は、「品種登録を受けている品種及び当該登録品種と特性により明確に区別されない品種」に対してその効力が及び(20条1項)、法解釈からは直接DNA鑑定での判断は出てこない。
(全ゲノム解析を行って完全同一性を確認できるのであれば、同一品種であることを証明することはできる。ただ、そもそも全ゲノムを特定できるのであれば、立証が難しい育成者権による保護ではなく、特許権による保護も可能である(現時点では非現実的ではあるが)。)

DNA解析による同一性の立証についても、現物主義との関係で何か問題があるかもしれない。

 

この裁判例等を考慮しながら、今後研究を進めていく予定です。
なお、この文章は研究が進むにつれて変更する予定であるので、その点予めご了承ください。

以上

弊所では、種苗法に関するご相談も承っております。
種苗法について何かありましたら、遠慮なくお問い合わせください。

追記:種苗法に関する論文が掲載されている論文集の情報を追加(2017/4/7)