「八丁味噌」の地理的表示に関する審査請求の裁決書が公表されました

こんにちは、高田馬場で特許事務所を共同経営しているブランシェの弁理士 高松孝行です。

八丁味噌の写真

引用:農林水産省HP

地理的表示「八丁味噌」は、最初別の申請人により申請された後取り下げられ、その直後に現在の申請人によって申請され、登録されたという複雑な経緯があります。

そして、その地理的表示登録に対して行政不服審査が請求されたところ、令和3年3月10日にその裁決書が公表されましたので、今回はそれについて書きます。

「八丁味噌」に関する行政不服審査請求の裁決書はこちら

さて、この裁決書の内容ですが、結論としては、「本件審査請求を棄却する。」ということになりました。

正確には、裁決書をご覧になっていただければとは思いますが、次の点に関する判断が示されています。

  1. 確立した特性について
    『審理関係資料によれば、八丁組合が古来からの製法を相対的に維持していることは認められる。しかしながら、大豆と塩のみを原料とし、蒸した大豆で作った大きめの味噌玉の表面に麹菌を繁殖させて豆麹を作ること及び仕込みを行った上で重りをのせて長期熟成させるといった豆味噌製造の基本的な部分が共通していることに加え、愛知6社の中にも、岡崎2社と同じような大きな味噌玉、低い仕込み水分量、長期間熟成等の製法を用いて生産された「八丁味噌」が認められる。
    そして、参加人が行った成分分析等において、愛知6社の八丁味噌と岡崎2社の八丁味噌との間に、「八丁味噌」の品質(味や色)に有意な差を認めることはできなかったことも勘案すれば、品質によって両者の「八丁味噌」の特性が全く異なると区別できるものとは認められない。審査請求人の提出した文献には「八丁味噌」に関する味噌玉の大きさや熟成期間に関する記述があるものも見られたが、前述のとおり愛知6社にも同様の大きさの味噌玉や長期の熟成期間といった製法による「八丁味噌」があり、当該文献の内容をもって、岡崎2社の八丁味噌のみが愛知6社の八丁味噌とは全く異なった品質を有することを示しているとまではいえない。
    愛知6社の八丁味噌には、酒精が加えられているものがあるという点についても、全国味噌工業協同組合連合会の作成した文書によれば「容器の膨張につながる包装後のガス産生や味噌の香味を損なう産膜酵母の発生を防止するため、豆味噌においては米味噌と同様に熟成終了後に酒精を添加する。…また、酒精は豆味噌の香味等の品質には影響しない」と記載されていること等から、酒精は原材料として用いられているのではなく、劣化を防止するための食品添加物として加えられているに過ぎず、酒精が加えられたことにより特性が全く異なるものになるとは認められない。』
  2. 本件登録八丁味噌の社会的評価について
    『「八丁味噌」の社会的評価は、「八丁味噌」の品質や生産拡大に寄与した技術的な面や商標権取得等も含めた「八丁味噌」の認知度向上の面等において、参加人組合員の貢献があり、本件登録八丁味噌は、これらの社会的評価を踏まえて登録されたものと認められる。』
    『上記の生産に係る歴史的事実、名古屋めしを代表する調味料としての認知、そして価格に裏付けられた、愛知県の共有財産としての「八丁味噌」の社会的評価は、岡崎2社及び愛知6社を含めた愛知県内で生産された八丁味噌により形成されているとすることが適当である。』
  3. 当該申請農林水産物等の生産業者の合意形成について
    『農林水産物等審査基準が「当該申請農林水産物等の生産業者の合意形成」について斟酌するとしたのは、申請書類に記載された農林水産物等の特定に必要な事項が生産業者間の共通認識となっていないと、申請者である生産者団体により現に生産されている農林水産物等と申請書上に記載された農林水産物等とが一致していることの客観的な把握が困難となるためである。したがって、審査請求人と参加人との間の合意形成は当該基準で問われている問題ではなく、申請者である生産者団体の構成員間の合意形成は図られており、当該申請農林水産物等の特性等の特定において問題とならなかったとの処分庁の判断は是認できるものである。』
  4. 特性が生産地に主として帰せられるものであることについて
    生産地の範囲については、『審査請求人と参加人との間では生産地の範囲(愛知県岡崎市八帖町に限られるか、愛知県内か)について争いがあるものの、本件申請に係る審査において、処分庁は岡崎市以外の愛知県内の生産業者においても「八丁味噌」の名称を使用している実態を認めており、当該名称を冠する産品の生産地を岡崎市に限定する合理的理由は無いと考えられる一方で、本件登録八丁味噌の生産地は愛知県内に限定されていることから、申請農林水産物等の範囲が特定できないとまではいえないと判断しており、理由第2.2(2)イ(イ)の各事実によっても、本件申請に係る「八丁味噌」の生産地が愛知県内に限定されていると認定できる。』と認定され、
    生産地・生産の方法と特性との結び付きについては、『全国味噌工業協同組合連合会の作成した文書によれば「容器の膨張につながる包装後のガス産生や味噌の香味を損なう産膜酵母の発生を防止するため、豆味噌においては米味噌と同様に熟成終了後に酒精を添加する。…また、酒精は豆味噌の香味等の品質には影響しない」と記載されていること等から、酒精は原材料として用いられているのではなく、劣化を防止するための食品添加物として加えられているに過ぎず、酒精が加えられたことにより品質が大きく異なるものとは認められない。したがって、本件登録八丁味噌に関し食品添加物として酒精の添加を区別しないことをもって、本件登録八丁味噌の生産方法が特性と結び付いていることが矛盾なく合理的に説明できていないとはいえない。』と認定されています。
  5. 要者が、「八丁味噌」の名称から、本件申請に係る豆味噌について法第2条第2項各号に掲げる事項を認識できない場合(名称審査基準第2.1(2)オ)に該当するか否かについて
    『「八丁味噌」という名称の味噌は、愛知県岡崎市が発祥であることは審理関係人の間で争いがない。しかしながら、理由第2.2(2)イ(イ)②のとおり、遅くとも昭和初期以降、「八丁味噌」を生産する業者は愛知県各地に広がり、登録時には愛知6社も「八丁味噌」を生産し、その生産量は相当な規模になっている。また、同③のとおり、愛知6社は、「八丁味噌」の文字を構成中に含む商標の登録を受け、また自社の商品を示す名称として「八丁味噌」を使用し続けてきた事実が認められる。実際に、取引業者の間でも、岡崎2社以外にも「八丁味噌」を生産する業者が存在することが認識されており、同①のとおり、本件申請に提出されている刊行物のように参加人組合員も「八丁味噌」の生産者としてマスコミ等に露出しており、「八丁味噌」という名称が岡崎2社の生産する味噌のみを指すと需要者が認識しているとはいえない。さらに、同⑤のとおり、味噌の表示を管理する全国味噌業公正取引協議会が、愛知6社の八丁味噌を含む八丁味噌を当該地域で古くから認知された特徴を備え、その呼称がよく使われているものと認識していたことは、需要者が当該認識を有していたことの証左である。
    『実際にも、岡崎市以外でも「八丁味噌」が生産されており、需要者がそのことを認識している以上、本件処分は、消費者等に多大な混乱をもたらすものとは評価できない。』
  6. 「八丁味噌」が、不正競争防止法第2条第1項第1号又は第2号に掲げる行為を組成する名称である場合(名称審査基準第2.1(2)イ、ウ)に該当するか否かについて
    『「八丁味噌」という名称が自他識別機能又は出所表示機能を有し、かつそれが周知性あるいは著名性を備えるのであれば、不正競争防止法第2条第1項第1号又は第2号に該当しうるが、「八丁味噌」の名称は岡崎2社以外にも用いられており、過去の裁判例(東京高等裁判所平成2年4月12日判決(平成元年(行ケ)112))においても、「「八丁味噌」なる文字部分に取引上識別機能があると認めることはできない」と述べられているのであるから、同規定には該当しないと言える。』
    『前述のとおり、本件処分によって消費者等に多大な混乱をもたらすものとは評価できず、本件登録申請にかかる「八丁味噌」の名称が不正競争防止法第2条第1項第1号又は同第2号に掲げる行為を組成する名称とはいえない。』
  7. 4)「八丁味噌」の名称が普通名称(名称審査基準第2.1(1))に該当するかについて
    『全国味噌業公正取引協議会が、本件処分以前から、愛知県外の事業者が自社の豆味噌の表示として「八丁味噌」を使用した場合には当該名称を使用しないように指導していた事実に鑑みれば、「八丁味噌」の名称が付された豆味噌の生産地は愛知県に限定されていることが明らかである。したがって、「八丁味噌」の名称は、普通名称に該当しない。』
  8. その他地理的表示法第13条第1項各号に規定する登録拒否事由等があるか否かについて
    『本件処分には、登録生産者団体についての登録拒否事由その他の登録拒否事由は認められず、また、特段不当な点も認められない。審査請求人は、本件処分は消費者等に多大な混乱をもたらすものであり少なくとも不当であるとも主張するが、本件処分が消費者等に多大な混乱をもたらすものとはいえないことは理由第2.3(2)イ(ウ)に述べたとおりである。』
GIマーク

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この審査請求の背景にはいろいろなことがあるようですが、農林水産大臣(農林水産省)の判断としては、「八丁味噌」の地理的表示登録には問題が無いということになりました。

ちなみに、この裁決の参考とされた第三者委員会の報告書はこちら

本件審査請求人は、この裁決に不服があるようで、行政訴訟も検討しているとの報道もなされています。

行政訴訟が提起されましたら、弊所として注視して行こうと考えています。

弊所では、地理的表示申請代理サービスも行っております。
申請中の案件でもご相談いただけますので、お気軽にご相談ください。

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今日は以上です。