著作権に関する判例をまとめた専門誌が著作権侵害で出版を差し止められた!? ・・・その後

著作権に関する判例をまとめた専門誌が著作権侵害で出版を差し止められた!? ・・・その後

こんにちは、高田馬場で特許事務所を共同経営しているブランシェの弁理士 高松孝行です。

コピーしている女性のイラスト以前のブログで、株式会社有斐閣が出版しようとしていた「『著作権判例百選』(第5版)」(以下「本件雑誌」という。)の出版差止の仮処分が認められたと書きましたが、その後に動きがありましたので、それについて書きます。

出版差止の仮処分が認められた後、有斐閣は、この仮処分の取り消しを求め、東京地方裁判所に保全異議申し立てを行ったようです。

そして平成28年4月7日に、その決定(平成28年(モ)第40004号保全異議申立事件)がなされ、結論としては仮処分決定が許可されました。

その決定文は、本文だけで68ページ(別紙まで含めると73ページ)にもなる長大な文章です。

すべてを記載することはできませんので、争点のうちで重要と思うものを書きます(一部編集していますので、詳細は必ず原文(決定文)で確認してください)。

  1. 債権者(大学教授)が編集著作物たる「『著作権判例百選』(第4版)」(以下「本件著作物」という。)の著作者の一人であるか
  2. 本件雑誌の表現から本件著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができるか
  3. 本件著作物は別紙「『著作権判例百選』(第4版)搭載判例リスト(案)」のとおりの原案(以下「本件原案」という。)を原著作物とする二次的著作物にすぎず,本件著作物において新たに付加された創作的表現が本件雑誌において再製されてはいないということができるか
  4. 著作権法19条3項の趣旨に照らし,本件雑誌のはしがきの表示をもって,同条1項後段の原著作物の著作者名の表示がされたとして,氏名表示権の侵害がないといえるか。

これらの争点に関し、裁判所は次のように判示しました。

1について
裁判所の判断:本件著作物の編集著作者であるとの推定を覆すことはできない
理由:編者会合に出席し,他の編者と共に,判例113件の選択・配列と執筆者113名の割当てを項目立ても含めて決定,確定する行為等は,本件著作物全体に係っているし,債権者による素材の選択も,前示のとおり,他の素材の選択及び組合せとあいまって全体の編集著作物を構成しているものであるから,債権者の関与部分のみを分離して個別に利用することはできない。本件著作物は,著作権法2条1項12号の「二人以上の者が共同して創作した著作物であって,その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの」に当たるというべきである。

2について
裁判所の判断:本件著作物の判例等の選択・配列の大部分が本件雑誌にも維持されていることが確認できるとともに,本件雑誌の判例等の選択・配列を見たときに本件著作物のそれに由来する各一致部分の全部又は一部を優に感得することができる。
理由:次の一致点を考慮すると、本件著作物と本件雑誌とで創作的表現が共通し同一性がある部分が相当程度認められる。
①判例の選択については,本件著作物の収録判例と本件雑誌の収録判例とで97件が一致
②執筆者(執筆者の執筆する解説)の選択については,本件著作物における執筆者と本件雑誌における執筆者とで93名が一致
③判例と執筆者(執筆者の執筆する解説)の組合せの選択については,本件著作物における組合せと本件雑誌における組合せとで83件が一致
④判例及びその解説(以下,併せて「判例等」という。)の配列については,本件著作物の判例等と本件雑誌の判例等とで合計83件の配列(順序)が一致
⑤判例等の配列を位置付ける項目立てについても,本件著作物の大項目及び小項目の立て方と本件雑誌の大項目及び小項目の立て方とでその大半が一致

3について
裁判所の判断:採用できない
理由:本件原案は,最終的な編集著作物たる雑誌『著作権判例百選[第4版]』の完成に向けた一連の編集過程の途中段階において準備的に作成された一覧表の一つであり,まさしく原案にすぎないものであって,その後編者により修正,確定等がされることを当然に予定していたもの(編者が検討するための叩き台,提案)であったことは明らかである。そうであるならば,  途中の段階で本件原案が独立の編集著作物として成立したとみた上で本件著作物について本件原案を原著作物とする二次的著作物にすぎないとすることは相当ではない。

4について
裁判所の判断:債務者が本件雑誌を頒布して公衆に提供するに当たり,原著作物の編集著作者としての債権者の氏名の表示をしないことは,債権者の氏名表示権(著作権法19条1項後段)を侵害するものというべきである
理由:『判例百選』シリーズにおいては,改訂版であっても,二次的著作物に当たるとは限らないことは明らかである。したがって、『著作権判例百選』の「第5版」において「第4版」と表記した部分が「原著作物」の表示に当たるとは当然には解することができない。

なお、この他の6つの争点についても、債務者の主張は認められませんでした。

著作権は、非常に複雑な権利です。
著作権の譲渡やライセンス契約等について、何かありましたら弊所にご相談ください。

この決定の後、有斐閣が保全抗告したかどうかの情報は今のところありません。
今後、本件について動きがありましたらブログに書きたいと思います。

今日は以上です。

この記事を書いた人

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